
「水処理」と聞くと、専門的で少し縁遠い分野だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちの生活や産業活動に不可欠なこの分野で、革新的な技術と独自のマーケティング戦略を武器に成長を続ける企業が千葉県にあります。セイスイ工業株式会社(千葉市若葉区)です。同社は、水処理設備のレンタル、特に仮設の設備に強みを持ち、建設現場から災害復旧、工場の排水処理まで、幅広いニーズに応えています。
多くの中小企業がそうであるように、セイスイ工業もかつては伝統的な営業スタイルが中心でした。しかし、時代の変化とともに新たな顧客獲得の必要性を感じ、BtoBマーケティングへの挑戦を決意します。本記事では、セイスイ工業のマーケティング担当をつとめる桑原さんにお話を伺い、同社がどのようにしてウェブマーケティングを導入し、成果を上げてきたのか、そしてその過程で見えてきた課題や今後の展望について掘り下げていきます。BtoB企業におけるマーケティングのヒントが、ここにあるかもしれません。
Webマーケティングへの本格参入
桑原さんによると、かつての営業活動は展示会への出展などが中心だったと言います。もちろん、展示会は直接顧客と接点を持てる貴重な機会ですが、それだけではリーチできる層に限界があり、また、継続的な情報発信という点では課題も感じていました。
そこで同社が本格的に取り組み始めたのが、Webマーケティングです。その目的は、より多くの潜在顧客にセイスイ工業の技術やサービスを知ってもらい、問い合わせを増やすこと、そして営業活動の効率化を図ることにありました。
まず着手したのは、ホームページのリニューアルです。顧客が必要とする情報を分かりやすく提供し、問い合わせに繋がりやすい導線を設計。そして、SEO戦略にも力を入れました。「水処理」や関連する専門的なキーワードで検索した際に、セイスイ工業のサイトが上位に表示されるよう、コンテンツの質を高め、技術的な最適化を行いました。
さらに、コンテンツマーケティングも積極的に展開。水処理に関する専門的な知識やノウハウを解説する用語集などのコンテンツや、顧客の課題解決に役立つお役立ち情報を発信することで、見込み客の関心を引き付け、信頼関係を構築することを目指しました。

これらに加え、リスティング広告でターゲットを絞った訴求を行い、業界の比較サイトへの掲載で認知度を向上。メールマガジンで既存顧客や見込み客との継続的なコミュニケーションを図り、プレスリリースで新技術や取り組みを広く告知するなど、多角的な施策を展開していきました。
東芝との提携で、マーケティングの信頼性が加速
セイスイ工業の強みは、その高い技術力と、さまざまな設備を組み合わせて顧客の課題を解決するプランニング力。なかでも今注目されているのが、東芝と提携して導入したコンパクトな水処理設備「Habuki(ハブキ)」です。
この「Habuki」は、従来大規模な設備が必要とされていたBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)、さらには窒素といった水質汚濁の原因となる物質の処理を、より小さなスペースで効率的に行えるようにした画期的な技術です。例えば、下水処理場の能力を一時的に増強したい場合や、工場の排水処理で特定の物質を除去したい場合などに、このコンパクトな「Habuki」が活躍します。
東芝との提携は、技術面だけでなくマーケティング面でも大きな効果をもたらしました。大手企業である東芝との協業は、セイスイ工業の技術力に対する信頼性を高め、顧客への訴求力を強化する上で大きなプラスとなったのです。

セイスイ工業では、この「Habuki」のような先進技術を、ウェブサイトや技術資料、展示会などを通じて積極的にアピールしています。技術的な優位性を分かりやすく伝えることで、専門知識を持つ顧客だけでなく、水処理に詳しくない潜在顧客にもその価値を理解してもらうことを目指しています。技術力という「強み」を、マーケティングという「伝える力」と融合させることで、新たなビジネスチャンスを切り拓いているのです。
周年事業とアンバサダー戦略で、認知度とブランドイメージを向上
企業がマーケティング活動を行う上で、周年事業は大きな節目であり、ブランドイメージを刷新・向上させる絶好の機会となります。セイスイ工業も、2024年に設立50周年という大きな節目を迎え、これを機に新たなマーケティング施策を展開しました。
そのなかでも特に注目されたのが、生き物博士としても活躍する静岡大学准教授の加藤英明氏をアンバサダーに起用したことです。「池の水ぜんぶ抜く大作戦」などのテレビ番組でおなじみの加藤氏は、環境問題や生物多様性に関心を持つ層に広く知られています。セイスイ工業は、加藤氏をアンバサダーに迎えることで、自社の事業が環境保全に貢献しているというメッセージをより多くの人々に届け、認知度と企業イメージの向上を図りました。
50周年記念イベントとして開催された、子どもたちを対象とした加藤氏とのコラボイベントは、水処理や環境問題に関する啓発活動として多くのメディアにとりあげられ、セイスイ工業の認知度向上に大きく貢献しました。また、加藤氏を通じて、これまで接点のなかった層からの問い合わせや相談も寄せられるようになり、新たな顧客層の開拓にも繋がったと言います。

周年事業とアンバサダー戦略を組み合わせることで、企業ブランドの価値を高め、社会的な信頼を獲得するという、BtoBマーケティングにおける一つの成功例を示したと言えるでしょう。
BtoBマーケティングの成果と課題:問い合わせの「量」から「質」へ
セイスイ工業が取り組んできたBtoBマーケティングは、着実に成果を上げています。特にWebマーケティングの導入により、問い合わせ件数は以前に比べて大幅に増加しました。SEO対策やコンテンツマーケティングによって、能動的に情報を求める潜在顧客との接点が増えたことが大きな要因です。
しかし、その一方で新たな課題も見えてきました。それは、問い合わせの「量」は増えたものの、その「質」にはばらつきがあるという点です。なかには、セイスイ工業の専門分野とは異なる内容の問い合わせや、すぐには具体的な案件に繋がらないケースも少なくありませんでした。
この課題に対し、セイスイ工業では、問い合わせ内容をより的確に把握し、効率的に対応するための仕組みづくりを進めています。その一つとして、AI(人工知能)の導入も検討しているとのことです。ドイツ製のAI製品をテスト導入し、問い合わせ内容の分析や初期対応の自動化を図ることで、営業担当者がより質の高い見込み客への対応に集中できる体制を目指しています。
いざ100億円企業へ!セイスイ工業のこれから
セイスイ工業は、「売上100億円企業」という明確な目標を掲げ、さらなる成長を目指しています。その実現に向けて、排水処理と汚泥処理という二つの事業の柱をより強固なものにしていく方針です。
この成長戦略において、BtoBマーケティングが果たす役割はますます大きくなると、桑原さんは語ります。Webマーケティングによる潜在顧客の掘り起こしはもちろんのこと、既存顧客との関係を深化させ、長期的なパートナーシップを築いていくためのコミュニケーション戦略も重要になります。
「セイスイ工業の考えるBtoBマーケティングのテーマとは何ですか?」
こう尋ねると、返ってきた回答はまさにBtoBマーケティングの真髄といえるものでした。
「こちらが売り込んで仕事をいただくのではなく、相談したい、提案してほしいという依頼をいただく流れをつくること」。
顧客の抱える課題を深く理解し、最適なソリューションを提案する「課題解決提案型」への変革。マーケティング部門と営業部門が密に連携し、顧客情報を共有しながら、一貫したメッセージでアプローチしていくことの重要性を再認識しました。
セイスイ工業の挑戦から、私たちBtoB企業がマーケティングで成功するために学ぶべき点は多いでしょう。それは、自社の強みを明確にし、ターゲット顧客に響くメッセージを発信し続けること。そして、変化を恐れずに新しい技術や手法を取り入れ、常に改善を繰り返していく姿勢です。
「正直、問い合わせの質という点ではまだまだ課題もあります。しかし、何もしなければ何も始まりません。まずはやってみる、そして改善していく。その繰り返しです」。その言葉には、変化を恐れず、常に前向きに挑戦し続ける企業の力強さが込められていました。